旦那が社内で部下と不倫!相手に退職を迫っても問題ないか?

夫(妻)が職場の部下と不倫をしていたことがわかった場合には、とてもショックを受けます。上司としての尊敬がいつのまにか恋愛感情に変わっていた、部下として指導しているうちについ、ということは、あってはならないことですが、よくあることのようです。
こういった状況で、被害者の方は配偶者の部下である不倫相手とどのように示談交渉をするべきなのか、また、交渉の際に注意するべき事項はなにか、ということについて、今回はご説明します。
目次
1.上司と部下の不倫が多い理由
仕事上の上司と部下は、同じミッションを達成するために共同して働くということになりますので、自然と共有する時間が長くなります。
営業など外回りが多い仕事であれば、一緒に会食に出かけたり、出張などで時を過ごしたりする時間も長くなるでしょう。
また、職場で毎日顔を合わせるので自然と親密になりやすいということもあります。
既婚者のほうからすると、職場に出かけるのにあたって配偶者に言い訳をする必要もないので、不倫がばれにくいという心理も働くようです。
部下からすると、上司は自分よりも仕事ができることがほとんどですから、仕事ができる姿や自分のミスをかばってもらったりしたときに、異性としての魅力を感じてしまうということもあるようです。
2.部下との浮気がわかる兆候の例
急な残業が増えたり、特定の曜日だけが帰りが遅かったりというような兆候がみられて、配偶者(不倫をしている配偶者とのことを、法的には有責配偶者といいます)の浮気に気づいたという方もいます。
また、浮気には、食事代などデートにかかるお金、プレゼント、宿泊代など様々にお金がかかるものです。急に出費が増えたり、クレジットカードの明細にあやしい出費項目があったりすることで疑いをもち、有責配偶者に問い詰めたところ浮気を自白したというような例もあります。
3.不倫が発覚した場合の責任
民法上の責任が問われる
職場の上司部下の組み合わせの不倫でもそうでない組み合わせの不倫でも、法的な評価としては、不倫は不法行為にあたり、不倫関係にある男女両方が、被害者である配偶者に対して損害賠償責任を負います。
民法709条は故意過失により、他人の生命・身体・財産に損害を与えた者は、その損害を賠償する責任を負うとしており、民法710条は、損害は財産的損害に限らないとしています。
婚姻している男女は、互いに相手以外の異性と性的な関係をもってはならないという貞操義務を負うことになります。
それに違反して不倫をしたほうの配偶者は有責配偶者といい、自分の配偶者が不倫によっておった精神的損害について賠償責任を負います。
また、既婚者であることを知りながら、既婚者と肉体関係をもった不倫相手も同様です。会社の上司や部下が結婚していることを職場で完全に隠している例はあまりないので(少なくとも人事部にはお給料や扶養の関係もありますので、身上は届けているはずです)、結婚していることを知らなかったという抗弁は、この場合かなり難しいものがあります。
4.就業規則との関係
民法上の責任とは別に、会社は自社の社内規定として、不倫などの不法行為については懲戒の対象としていることが多いはずです。
昨今のコンプライアンス意識の高まりにより、就業規則をきちんと定めて運用する会社は増えています。不倫は業務には関係ないプライベートなものとはいえ、社内に不法行為をしているカップルがいるということはコンプライアンス上望ましくないですし、会社の風紀が乱れる可能性があるので、会社にばれた場合は何らかのおとがめがあると考えたほうがよいでしょう。
懲戒のレベルは会社にもよりますが、異動、減給、降格、最悪の場合は解雇ということもありえます。
特に上司のほうに対しては、部下を指導する管理職という立場でそのようなことをしたということで、不倫関係のリーダーシップがあったとして、会社での評判には少なからず傷がつくと思われます。
5.被害者側の配偶者が気をつけるべきこと
(1) 不倫相手である部下を退職させる権利はない
配偶者とその部下の不倫関係を知ったら、誰もが憤りを感じると思います。
また、配偶者が出社するたびに部下と会っていると思うと気が気ではなくなり、2人の職場を異なるものとさせたいという心理になるのは当然のことかもしれません。
有責配偶者である自分の配偶者に迫って転職させるという方法は一案ですが、それは被害者である配偶者側の生活の基盤を脅かすことにもなりますので、なかなかそうもいきません。
特に、被害者側の配偶者が専業主婦だったりお子さんがいたりすると躊躇われると思います。そうなったときに、不倫相手に退職を強引に迫ってしまう方がいますが、実はこれは黄色信号です。
不倫は確かに不法行為ではあるのですが、不倫をしたからといって退職を強制することができる法的な権利はないのです。
不倫相手にも生活がありますし職業選択の自由の権利もありますので、これを不倫したからといって退職させることはできません。
もちろん部下のほうが、不倫について深く反省して、気持ちを新たに有責配偶者と関係がないところでスタートさせたいので辞職しますといってきてくれる分には問題はないのですが、こちらからの強要にならないように注意しましょう。
(2) 不倫の事実を職場に言いふらすのはNG
不倫相手への悪感情が大きかったり、直接交渉してこじれたりして憎しみが強くなってしまった場合に、極端な場合であると不倫相手の職場や近所などにビラをまいて不倫の事実をみだりに周囲にいいふらしたり、嫌がらせをしてしまったりする方もいます。
また、不倫相手の親や親族に言いつけたりすることもあります。不倫相手の実名を知っている場合は、ネットに書き込んでしまうという人もいるようです。
しかしながら、こういった行為をうかつにしてしまうと、相手のプライバシーの侵害や名誉毀損になってしまうこともあります。
名誉毀損になると刑事罰と対象ともなってしまいます。程度にもよりますが、相手からプライバシー侵害や名誉毀損で民事上の請求を受けたり、警察に相談されて捜査対象になってしまったりすることもありますので、こうなると本末顛倒です。
不倫は民事上の不法行為ではありますが、刑事責任はないですので、不倫相手よりも重い法的責任を負ってしまうということはなんとしても避けなければなりません。
6.不倫相手への対応策
金銭的解決と誓約をとる
以上から、不倫相手への報復措置として、相手の名誉を毀損したり嫌がらせをしたりすることにはリスクが伴うことをご理解いただけると幸いです。
それでは不倫をされた被害者としては不倫相手にどのように対応するべきでしょうか。それは、不倫慰謝料でご自身が受けた精神的ダメージについてきちんと金銭的な補償を受けるということと、もし有責配偶者と今後も結婚関係を継続し、夫婦仲を修復していくことを目指すのであれば、不倫関係を清算させることの誓約をとるということです。
不倫の誓約書でよくあるのが、今後一切の連絡を絶つという誓約をとるという文言ですが、上司部下の場合は、職場が同じですので、業務以外での私的な接触を避けるという誓約をとることが現実的な対応策といえるでしょう。
7.不倫慰謝料はどの程度請求できるのか
不倫慰謝料は、このくらいの金額というふうに法律で決まっていたり、オフィシャルな算定式があったりするようなものではありません。
なぜならば、金銭で補償しようとしている損害の内容が、有責配偶者の不貞行為により傷つけられた精神的な損害と、家庭の平和という法益に対する損害という目に見えなくて金銭換算しづらい性質のものだからです。
精神的な損害や家庭の平和がそれぞれの個人や環境によって異なるものですので、被害者と加害者が合意すればそれがそのまま損害額となります。
そうはいっても、被害者はなるべく多く請求したいし、加害者はなるべく払いたくないという気持ちになるのが人情ですので、過去裁判などでも争われてきた金額がだいたい相場として決まってきています。
合意に至らないで裁判になれば大体これくらいの認定になるだろうという相場に応じて、多くの人は示談交渉するものだからです。
不倫慰謝料の相場はだいたい50万円~300万円といわれています。
夫婦が不倫によって離婚する場合は100万~が多く、離婚しない場合は50万円程度となることも多いようです。
請求者側の言い値でそのまますんなりと支払ってくれるものとは限らないので、初回の請求は相場にしばられずに、自分が思う損害額を請求してみて、相手からの交渉に応じて減額という方向性を取ることも一つの選択肢です。
8.上司部下間の不倫慰謝料の注意点
(1) 不倫のリーダーシップ
有責配偶者が上司にあたり、その部下と不倫をしていたという場合、不倫のリーダーシップは有責配偶者にあっただろうという推定がはたらきます。
上司は評価も業務調節もできる立場ですし、多くの場合、部下よりも年齢や社会人経験も上であるはずです。そうすると、社会的地位も年齢も有責配偶者のほうが上ですので、リーダーシップは通常は有責配偶者にあっただろうと考えられるのです。
どちらにリーダーシップがあったかということは、慰謝料の算定や、有責配偶者と部下との責任分担に影響します。
不倫の当事者である男女は、被害者である配偶者に対して共同不法行為に及んだという位置づけになります。
共同不法行為を行った者は、被害者から損害賠償請求を受けたときに、他の共同不法行為者に先に請求してくれ、とか半分請求してくれという主張を被害者に対してはとれなくなります。
したがって、認められた損害賠償額については、それぞれ被害者に対しては100%支払う義務を負うのです。
しかし、これではあまりに公平性にかけますので、100%負担した共同不法行為者は、もう片方の共同不法行為者に求償といって、その責任分担額を返してくれという請求をすることができます。
有責配偶者と離婚する場合はともかく、結婚を継続する場合、被害者である配偶者と有責配偶者は一つの生計になります。
そのため多大な努力をして請求しても、後から有責配偶者に多く求償されることがわかっている場合は、見極めが必要になります。
(2) 不倫関係を強要した場合、部下に責任がないことも
また、上司である有責配偶者がなんらかのパワーを使って、部下に関係を強要した場合、部下は故意過失によって被害者である配偶者に損害を与えた立場ではないということになり、そもそも不法行為者ではないので、慰謝料支払義務を負わないということもあります。
上司は、昇給や査定など人事上部下に対して権力をもっているので、こういった関係はないわけではありません。不倫相手と折衝する前に有責配偶者にこういうことがなかったかどうか確認しておきましょう。
また、言い逃れのために、実際は自らの意思で不倫関係に入ったのに、上司から強要されたと嘘をつく部下がいないとは限らないので、有責配偶者と話して強要の事実がなければ、反論された場合に、部下が自分の意思で不倫関係にはいったということがわかる証拠(たとえば、LINE等で、不倫関係で積極的な態度をとっている場合はメッセージの内容でだいたいわかります。)を保存し、万一そのような主張をされた場合に備えておくことが必要です。
8.職場の人事部等に相談するリスク
私的な接触をたつといっても、上司部下の関係でいられると、どこまでが業務上でどこまでが私的な接触なのか悩ましく不安に思う場合もあるかも知れません。
たとえば、職場での雑談は普通のことだと思いますが、それは業務上でもあるともいえるし、ある程度プライベートであるともいえるからです。
誓約書をとってもやはり信用ができない、不安が残るという場合には、有責配偶者に理由を何とか付けてもらい異動願いを出してもらうという方法があります。
有責配偶者が素直に応じてくれない場合は、最終手段として職場の人事部や総務部などに事情を相談し、穏便に異動や配置転換をしてもらないか相談してみるという手もあります。
しかしながら、これは諸刃の剣だともいえます。
不倫カップルに別れてもらい、有責配偶者と結婚を続けるということは、有責配偶者への会社からの評価がさがり、請求者側である配偶者にもデメリットになるからです。
また、人事部や総務部は秘密裏に処理をしてくれるはずですが、急な人事異動などでどうしても職場でうわさとなる可能性はありますし、不倫のうわさがたつと有責配偶者が事実上職場にいづらくなってしまうという場合もあります。
なるべく職場の力を借りず、有責配偶者や不倫相手とのやり取りで完結できればよいでしょう。
9.不倫問題の解決は弁護士に相談を
いかがでしたでしょうか。信じていた配偶者と部下の不倫はとてもショックですが、感情的にならず慌てずに対処しましょう。
不倫の証拠をおさえたら、早くから弁護士に相談することをおすすめします。
不倫問題は当事者間が直接やり取りすると感情が混じって話しがこじれることも多いですので、不倫関係に実績がある法律事務所に示談交渉をお願いするほうがうまくいくことが多いです。
不倫問題の解決・不倫慰謝料の請求を検討されている方は、一度泉総合法律事務所へご相談下さい。