不倫を言いふらす・バラしたら犯罪?名誉毀損罪や侮辱罪は成立するか

「夫の不倫を近所に言いふらしたりネットで公表したりしたら、名誉毀損?」
夫に不倫されたら、腹が立って会社の人にバラしたり近所の人に言いふらしたり、ネット上のブログやSNSなどで文句を言ったりしたくなるものです。
しかし、そのようなことをすると、名誉毀損罪や侮辱罪などの犯罪が成立してしまい、かえって相手から訴えられる可能性があるので注意が必要です。
今回は、夫の不倫を言いふらすと違法になるケースについて、解説します。
目次
1.「名誉に対する犯罪」
まず、不倫を言いふらすと、どのような犯罪が成立する可能性があるのかみてみましょう。
(1) 名誉毀損罪
不倫を職場などの周囲にバラしたときにまず問題になるのは「名誉毀損罪」です。
名誉毀損罪は、公然と事実の摘示により、他人の社会的評価を下げる行動をとったときに成立します。
①名誉毀損の要件
公然と
「公然と」とは、不特定多数に知られる可能性がある状態におくことです。
たとえば職場の人に不倫を触れ回ると、そこからいろいろな人に不倫の事実が広がっていく可能性があるので、「公然と」の要件を満たします。
ネット上に投稿した場合にも、不特定多数の人が見ることができるので、公然と言えます。
事実の摘示
名誉毀損罪が成立するには、事実の摘示が必要です。つまり、何らかの事実を提示することによって他人の社会的評価を下げると名誉毀損です。
事実の内容が真実であるかどうかは問題にならず、真実の提示によって相手の名誉を毀損した場合にも名誉毀損罪となります。
他人の社会的評価を下げる
名誉毀損罪で対象となるのは、他人の社会的評価です。他人とは自分以外の人のことなので、夫や不倫相手は「他人」と言えます。
また社会的評価を下げるかどうかは、一般の社会通念によって客観的に判断されます。被害者の主観で決まるものではありません。
②名誉毀損罪の刑罰
名誉毀損罪が成立すると、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金刑が適用される可能性があります(刑法に230条1項)。
(2) 侮辱罪
侮辱罪は、事実の摘示ではない方法で他人の社会的評価を下げる言動をとったときに成立する犯罪です。
名誉毀損罪との違いは、手段が「事実の摘示」か、それ以外の方法かということです。
たとえば「不倫した」という事実を示すと名誉毀損罪ですが、「ゲス男!」「淫乱女!」などと罵倒した場合などには侮辱罪が成立します。
侮辱罪の刑罰は、拘留または科料です(刑法231条)。拘留は30日未満の身柄拘束刑です。懲役刑や禁固刑は30日以上の身柄拘束刑ですが、29日以下なら拘留となります。
科料は1万円未満の金銭支払いの刑罰です。1万円以上になると罰金刑ですが、9999円以下の場合には科料となります。
このように、侮辱罪の刑罰は名誉毀損罪に比べて軽いです。
(3) 親告罪
職場の人に不倫をバラしたりネット上に書き込んだりすると「名誉毀損罪」や「侮辱罪」が成立する可能性がありますが、これらの犯罪は「親告罪」です。親告罪とは、被害者が刑事告訴をしない限り処罰されない犯罪です。
つまり、夫や不倫相手の職場に言いふらしても、夫や不倫相手が警察に刑事告訴さえしなければ、あなたが逮捕されたり刑事処分を受けたりすることはありません。
2.業務妨害罪が成立するケース
(1) 業務妨害罪の成立要件
不倫を周囲に言いふらすと「業務妨害罪」が成立するケースもあります。
業務妨害罪には2種類があり、1つは「虚偽の風説を流布し、または偽計を用いて、人の業務を妨害した」ときに成立します(偽計業務妨害罪。刑法233上後段)。
もう1つは威力を用いて業務を妨害したときに成立します(威力業務妨害罪 刑法234条)。
偽計業務妨害罪が成立するためには、流した事実が「虚偽」である必要があります。真実としての不倫をバラすだけでは業務妨害罪にならず、脚色して虚偽をとりまぜて相手の営業を妨害したときに犯罪になる可能性があります。
威力業務妨害罪については、たとえば「店を燃やしてやる」「仕事をできなくさせてやる」などと通知して不倫相手を脅した場合に成立する可能性があります。
偽計業務妨害罪と威力業務妨害罪の刑罰は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金刑で、両方とも同じです。
(2) 親告罪ではない
業務妨害罪は親告罪ではありません。
夫や不倫相手が刑事告訴をしなくても、犯罪が発覚したら警察が自主的に捜査を進め、逮捕される可能性があります。
3.不倫相手と直接交渉するときに成立しやすい犯罪
不倫相手と直接交渉をするときには、「脅迫罪」や「強要罪」「恐喝罪」「暴行罪」「傷害罪」が成立してしまうケースがあります。
以下でそれぞれがどのような犯罪か、ご説明します。
(1) 脅迫罪
脅迫罪は、相手や相手の親族の「生命、身体、財産、自由、信用」に対して害悪を告知したときに成立する犯罪です。
たとえば「殺すぞ」「殴るぞ、けがをさせるぞ」「〇〇するまで返さないぞ、子どもをさらうぞ」「家を燃やすぞ」「前科者である事実を公表するぞ」などと言うと、脅迫罪になる可能性があります。
不倫は社会的信用に関わる事実なので、「不倫をバラすぞ」と脅した場合にも脅迫罪が成立する可能性があります。
また、直接「不倫をバラす」と言わなくても、不倫相手に対して慰謝料請求をしたり不倫を認めさせようとしたりして「このままただですむと思うなよ」「家も子どもの学校も知っているぞ」などと告げると、やはり脅迫罪と評価される可能性があります。
脅迫罪の刑罰は、2年以下の懲役また30万円以下の罰金刑です(刑法222条)。親告罪でもないので、相手が刑事告訴しなくても逮捕される可能性があります。
不倫相手と直接交渉するときには、脅迫にならないように注意が必要です。
(2) 強要罪
「強要罪」は、相手に害悪を告知して脅迫することにより、相手に義務のないことを無理にさせた場合に成立する犯罪です。
たとえば、不倫相手と話をするときに「公衆の面前で土下座しろ」「今すぐ謝罪に来い。来ないと安心して眠れないぞ」などと言って、無理矢理相手に法的義務のない行為を強要したときに成立します。
強要罪には未遂罪があるので、相手に命令して相手が従わなかったケースでも犯罪が成立します。
刑罰は3年以下の懲役刑です(刑法223条)。
(3) 恐喝罪
恐喝罪は、暴行や脅迫の手段を用いて相手にお金を払わせたときに成立する犯罪です。
不倫相手と話合いをするときには、慰謝料の支払いについて取り決めをします。その際、「支払わないと、職場に不倫をバラすぞ」「慰謝料〇〇円支払わないと、不倫をバラして仕事ができないようにさせてやる」「子どもがどうなってもいいんだな」などと言って脅すと、恐喝罪となる可能性があります。
恐喝罪にも未遂罪があるので、脅した結果、相手が実際にはお金を支払わなかったケースでも、犯罪が成立します。
刑罰は、10年以下の懲役刑です(刑法249条)。
(4) 暴行罪
暴行罪は、相手に対して不法な有形力を行使したときに成立する犯罪です。
殴ったり蹴ったりする場合だけではなく、大声で怒鳴ったり水をかけたりしただけで暴行罪が成立するケースもあります。
不倫相手と話をしていて、ついつい感情的になって相手に暴力を振るったり、胸ぐらをつかんだり服を引っ張ったりすると、暴行罪が成立してしまう可能性があります。
暴行罪の刑罰は、2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金又は拘留もしくは科料です(刑法208条)。
(5) 傷害罪
傷害罪は、暴行の結果、相手を傷つけてしまったときに成立する犯罪です。
たとえば相手を殴ってケガをさせてしまったときや、相手がノイローゼになった場合などに傷害罪が成立します。
傷害罪の刑罰は、15年以下の懲役刑または50万円以下の罰金刑です(刑法204条)。
以上の脅迫罪、強要罪、恐喝罪、暴行罪、傷害罪はすべて親告罪ではありません。被害者が刑事告訴をしなくても、何らかのきっかけで警察に犯罪行為を知られたら逮捕される可能性があります。
4.犯罪が成立する具体例
不倫を言いふらしたりバラしたりすることで犯罪が成立してしまうのは具体的にどのような場合なのか、典型的なパターンをいくつかご紹介します。
- 夫や不倫相手の職場に電話して「〇〇が不倫している」と言う(名誉毀損罪)
- 職場に乗り込んでいって、「不倫している」と言う、騒ぐ(名誉毀損罪)
- ネットのSNSやブログに「不倫している」と投稿する(名誉毀損罪)
- ブログなどで、不倫を脚色して書き立てる(名誉毀損罪。相手の仕事を妨害したら偽計業務妨害罪)
- ネット上で「慰謝料を支払ってくれない」「慰謝料が支払われるまで書き続ける」などとして嫌がらせのブログを書く(名誉毀損罪、場合によっては恐喝(未遂)罪)
- 不倫相手や夫に「慰謝料を払わないと不倫をバラす」と告げる(恐喝(未遂)罪)
- 近所の人に「夫や不倫している」と言いふらす(名誉毀損罪)
- 不倫相手のマンションの集合ポストに「〇〇は不倫している」というビラを投函する(名誉毀損罪)
以上のような行為をすると、名誉毀損罪や脅迫罪、恐喝罪(未遂を含む)などの犯罪が成立する可能性があります。
5.犯罪が成立するとどうなるか
もしも不倫相手や夫に対する犯罪が成立したら、どのようなことが起こるのでしょうか?
(1) 刑事事件になる
まず、刑事事件になる危険性があります。
名誉毀損罪と侮辱罪の場合には、相手が告訴しない限り逮捕されませんが、その他の犯罪の場合には、犯罪が発覚した時点で逮捕される可能性があります。
逮捕されると引き続いて警察の留置場で「勾留」され、起訴されて「刑事裁判」になる可能性があります。
罰金刑になる場合には略式裁判となり、実際に裁判所へ行かなくて良いケースもありますが、罰金刑を適用された実績が残るので、一生消えない「前科」がつきます。
懲役刑を適用される場合には必ず通常裁判となり、裁判官の面前で「被告人」として裁かれることになります。もちろん前科もつきます。
このように、刑事事件になると、警察の留置場や拘置所で身柄拘束を受けるだけではなく、最終的に前科までつけられてしまう可能性があるので、不利益が大きいです。
あなたが不倫の「被害者」であっても、加害者になってしまうため、注意が必要です。
(2) 損害賠償請求される
あなたが夫の不倫を触れ回ったりネット上でバラしたりすると、不倫相手や夫から「損害賠償請求」される可能性があります。名誉毀損や侮辱行為によって相手は精神的苦痛を受けるので、あなたに対して慰謝料請求できるからです。
また、不倫をバラしたことが相手の業務に対する妨害となれば、営業利益の損失補償を請求される可能性もあります。
暴行によって相手をケガさせてしまったら、治療費やその他の雑費、休業損害や慰謝料を請求されるケースもあります。
このように、不倫された被害者であっても、犯罪行為をしたら反対に相手から損害賠償請求をされますし、不倫の慰謝料よりも相手への賠償金の方が高額になる可能性もあります。
そんなことになったら不利益しかありませんから、不倫問題に対応するときには慎重になるべきです。
6.合法的に不倫慰謝料請求するため弁護士へ相談を
犯罪行為に至らないように合法的に相手と話し合い、なおかつ適切な慰謝料を支払ってもらうにはどうしたら良いのでしょうか?
まずは、感情を抑えて冷静に対応することが重要です。相手を「許せない」という思いがあっても、感情的になるとついつい過ぎた行動をとってしまうからです。
また、周囲に言いふらしたりバラしたりしたくなる気持ちはわかりますが、そういった行動をとると名誉毀損罪などの犯罪になりやすいので、控えましょう。
有効なのは、きちんと資格を持った第三者に相手との交渉を任せてしまう方法です。
たとえば、弁護士に対応を依頼して自分で直接対応するのをやめれば、相手に対して余計なことを言ったり脅してしまったり、名誉毀損してしまったりすることはなくなります。
相手と直接関わることによるストレスからも解放されますし、弁護士が上手に交渉をすることで、より高額な慰謝料を獲得できる可能性もあります。
泉総合法律事務所でも、不倫の慰謝料請求のケースに力を入れて取り組みを進めています。夫に不倫されてお悩みであれば、ご自身で行動を起こされる前に是非一度弁護士までご相談ください。